Makoto Ueno


ベーゼンドルファーを奏でる悦び、その響きは、過去200年の巨匠達の音楽に寄り添った、歴史と文化をそのまま体現していると感じます。

ベーゼンドルファーは、19世紀のフォルテピアノの時代から、中央ヨーロッパ、ウィーンのピアノ造りの伝統を、休むことなく、現在も最高レベルのピアノを造り続けている唯一のメーカーです。

学生時代からかれこれ35年程ベーゼンドルファーを弾いてきました。私が曲がりなりにもこの特別な楽器を理解し始めたのは、やはり19世紀から20世紀初頭までのフォルテピアノ、特にウィーン式の楽器を多数弾く様になってからでした。

 

全てが効率の名のもとに動きがちな今日において、多くの時間とクラフトマンシップ、そして人間的な感覚を大切にしながら、少量生産を続けつつ存在している事自体が驚異的で、その様な芸術的なピアノを弾ける事に感謝しています。ベーゼンドルファーは、サロン、小、中、大ホールでの音楽作り、そしてソロリサイタル、協奏曲、レコーディング、全ての状況に対応出来る稀有な楽器と考えています。特に、インペリアル290は世界で最も個性的なピアノの1つで、一台一台にオリジナリティがあります。ベーゼンドルファーが今日もこの歴史的な名器を創り続けてくれている事は奇跡に近いと思っています。また、225は最も音域と音量バランスのとれたピアノ、中ホールでのソロ、また弦楽器との室内楽においては世界最高のピアノの1つです。

16歳からカ-ティス音楽院にて学ぶ。J.ボレット最後の6人の弟子の一人で、日本人唯一の生徒でもある。その後ザルツブルク・モーツァルテウムにてH.ライグラフ氏に師事。学生時代には、シェンカー、コルトー、フィッシャー、シュナーベル、フルトヴェングラー、チェリビダッケ、ブレンデル、グールドなど、多様なアーティストの著作や音楽に影響を受ける。また実際にG.グラフマン、M.ホルショフスキー、L.フライシャー、J.ラタイナー、E.オードウェル、A.ヤシンスキ、R.クヴァピル、R.トゥーレック、F.ガリミール、R.ラレード、S.リプキンなどの薫陶を受けている。

 

メリーランド(1985)、ベーゼンドルファー=エンパイア(ブリュッセル/1986)、ジュネーヴ(1988)、オルレアン20世紀(2002)、リヒテル(モスクワ/2005)等の国際コンクールで入賞。世界15か国で演奏を行う。

 

最近はライフワークとして19世紀から20世紀初頭の歴史的楽器と現代の多様な名器によるレコーディングに力を入れており、オクタヴィア・レコード、若林工房、Naxos、妙音舎(MClassics)などから多くのCDをリリースしている。

デビュー・アルバムのリスト「超絶技巧練習曲」(2004)以来、「ドビュッシー、バルトークの練習曲集」(2006)、1816年製ブロードウッドなどを使用したベートーヴェンのソナタ集(2011)、1925年製ニューヨーク・スタインウェイを弾いた「ラフマニノフとドビュッシー」(2013)、

1846年製プレイエルと1852年製エラールを使用した「ショパン・ソナタ集」(2013)、1852年製エラール使用のリスト作品集「巡礼の年第2巻&ヴェネチアとナポリ」(2014)、1906年製のベヒシュタインE270を演奏した、ワーグナー=リスト、スクリャービン、シェーンベルクなどのアルバム(2016)、1927年製エラールを弾いたドビュッシーとラヴェル作品集(2017)、1846年製シュトライヒャーと1903年製ベーゼンドルファーを弾いたブラームスのアルバム(2019)、そしてファツィオリF-308を弾いたショパンの練習曲全曲のアルバム(2021)をリリース。

 

アンサンブルの最近のリリースでは、現代のベーゼンドルファー・インペリアル290を使用した、フルーティスト瀬尾和紀とのモシェレス(2014)、チェルニー(2015)、ベートーヴェン(2018)、ウェーバー(2019)の作品集、またベヒシュタインEN280を使用した、バリトンの近野賢一とのシューマンのリート作品集(2018)、1861年製シュトライヒャーを弾いた成田寛とのブラームス・ヴィオラソナタ集(2020)などがある。

今後は、Virtusレーベルでのフランク作品集とシューマン作品集が2022年にリリース予定されている。

 

京都市立芸術大学音楽学部教授。名古屋音楽大学客員教授。日本音楽コンクール、宝塚ヴェガコンクール、松方ホール音楽賞、野島稔・よこすかピアノコンクール等、国内主要なコンクールの審査員を務め、ドイツ、トルコ、韓国、タイ、ポルトガルでもマスタークラスや国際コンクールの審査を行うなど、教育的活動にも力を入れている。